私は台風に遭ったことがない。
通り過ぎた後だったり、帰京すると台風が追いかけてきたり。
よっぽど晴れ男ということだろうか。
何年か前の夏、大型の台風が八重山地方を通り過ぎた。
島の緑は吹き飛び、所々褐色になっていた。
倉庫の屋根も破れ飛んで、青空が見える。
なんという自然の力。
ニシ浜を歩く。
海沿いのアダンも枝が折れている。
ニシ浜のいつもの木陰も砂で埋まってしまった。
だいぶすっきりしちゃったなぁ・・・
台風が過ぎた後の凪。
大きな雲の影が白い砂の上を移動する。
遠くに何か棒のようなものが砂浜から突き出ていた。
台風直後にはいろいろなものが流れ着くが。。。
近づいてみると、、、
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竜神がそこにいた。
いや、ここは八重山、竜宮神だ。
太古の昔から、八重山の豊かな海は島人を包んできた。
最初、漁をするのも素潜りで蛸や貝を採るのも、慣れ親しんだブルーグリーンの浅瀬だった。
発達したサンゴ礁棚を海畑(イノー)と呼ぶ。
やがて海人たちが船で未開の外洋(フカ)に出るようになる。
フカは優しいイノーとは異なり、その時々で表情を変える。
海人の命を奪うこともあった。
イノーはこちら側、フカは異界であり、ニライカナイにつながると考えられていた。
そのうち、人智を超えた存在がフカを支配していると信じるようになる。
それが竜宮(=外洋)神である。
高速船で波照間―西表間の2、30分は外洋を航行することになる。
今の時期~3月までは、揺れる船内で竜宮神に祈りを奉げることが必要かもしれない。
いや、祈らずにはいられない。
それから3か月経った初冬、もう海に帰られた後だった。